「母子世帯の子ども」と「 父子世帯の子ども」
離婚した夫婦に子どもがいる場合、日本では8割以上のケースで母親が親権者になっています。弁護士法人 東京新宿法律事務所
一方で、令和3年度ひとり親世帯等調査を見ると
- 母子世帯の母自身の平均年収:272万円
- 父子世帯の父自身の平均年収:518万円
と、ほぼ2倍近い収入差があります。令和3年度全国ひとり親世帯等調査
数字だけ眺めると
「経済的に余裕のあるほう(父親)が親権を取ったほうが、
子どもの生活は安定しそうなのに、なぜ現実は逆なのか?」
という疑問が湧く人もいるのではないでしょうか。
この記事では
- なぜ母親が圧倒的に親権を取るのか
- その結果として、母子世帯の子どもの未来と父子世帯の子どもの未来に、どんな違いが出やすいのか
を、「脱・おふたりさま」の視点で整理していきます。
なぜ母親が圧倒的に親権者になるのか
単独親権+「主に養育に関与している親」を重視する家裁実務
日本の離婚は、(改正前の民法。2026年4月改正予定)
「離婚後はどちらか一方が単独で親権者になる」仕組みです。
家庭裁判所で親権者を決めるときに重視されるのは、教科書的には
- 子どもの利益・福祉
- 生活環境の継続性・安定性
- どちらがこれまで主に子どもの世話をしてきたか(主たる監護者)
とされています。
ここで効いてくるのが、日本の典型的な家族モデルです。
- 父:長時間労働・出張・単身赴任
- 母:保育園・学校・病院・習い事の連絡から、日常のケアまで主担当
という分業のまま別居・離婚に突入すると、
「現に子どもと一緒に暮らし、日常的に面倒を見ているのはどちらか」
と問われれば、ほぼ自動的に母親になります。
裁判所は「今の状態をできるだけ崩さない」方向に判断しがちなので、結果として、母親=親権者が積み上がっていく構造になっています。離婚ポータル
離婚の9割が協議離婚、「子どもは母親」がデフォルト
もうひとつ大きなポイントは、
日本の離婚の約9割は協議離婚だということです。厚生労働省:統計
家庭裁判所まで行かず、夫婦の話し合いと離婚届だけで完結しているケースが大半という事実。
その交渉の土台にあるのが
- 「子どもは母親が育てるもの」という社会通念
- 父親側自身も「自分が親権者になって、フルタイムで働きながら育てる」イメージが持てない
- 「親権を争う父親」は、周囲からも警戒されやすい
といった空気です。
DVやモラハラが絡むケースでは、
- 母親は「子どもを手放せば加害親のもとに戻る」と感じる
- 父親は「金は払わないが子どももいらない」と言い放つこともある
という形で、「母親が子どもを抱えて出る」流れが半ば自動的に決まってしまうことも珍しくありません。
「母親が子どもを置いていく」という選択への強烈なスティグマ
経済的な合理性だけで見れば、
- 給与の高い父親側が親権者
- 母親が別居親で養育費を払う側
というパターンが多くてもいいような気がします。
しかし、現実には、「子どもを置いて出ていった母親」というレッテルを貼られ、社会的な非難・罪悪感が極めて強く、多くの母親にとっては無意識のうちに選択肢にすら乗らないのが実態です。
- 「どんなに生活が苦しくても、子どもだけは手放せない」
- 「母親なのに置いて行ったと言われるのが怖い」
この感情が、経済よりも優先されているケースは、現場の声でも繰り返し語られています。
母子世帯の子どもの未来:一緒にいられる代わりに背負う「貧困リスク」
では、母子世帯で育つ子どもの未来には、どんな特徴が出やすいのでしょうか。
ここからは、あくまで「傾向」の話です。
母子世帯だから必ず不幸、父子世帯だから必ず幸せ、という単純な話ではありません。
収入が低く、貧困のリスクが高い
既に示した通り、厚労省の令和3年度ひとり親調査からは
- 母子世帯の母自身の平均年収:272万円
- 父子世帯の父自身の平均年収:518万円
と、ほぼ倍の差があることが分かります。
さらに、ひとり親家庭全体の相対的貧困率は約5割とされています。
特に母子家庭の場合、母自身が就労で得る平均年収が236万円程度という推計もあり、
生活が困窮しやすく、教育格差が生じやすい傾向が指摘されています。セーブ・ザ・チルドレン
この「お金の薄さ」は、
- 塾や習い事をどこまでさせてあげられるか
- 高校・大学で進学を選べるか
- 大学に行っても奨学金(=実質借金)まみれにならないか
といった局面で、じわじわ効いてきます。
進学率は決して低くないが、「選択肢の狭さ」が残る
同じく令和3年度ひとり親調査によると、高校卒業後の進路は以下のような傾向です。
- 母子世帯の子ども
- 大学進学:41.4%
- 高校卒業後の進学率全体:66.5%
- 父子世帯の子ども
- 就労:36.1%が最多
- 大学進学:28.5%
- 進学率全体:57.9%
「ひとり親だから子どもが皆進学できない」というわけではなく、母子世帯でも約4割が大学に進学しているのは、むしろ健闘とも言えます。
ただし、全世帯の子どもの大学進学率(54.9%)よりは低いため、やはり経済的な制約が進路選択の幅を狭めていることがうかがえます。
「時間はあるけど、お金がない」母子世帯のジレンマ
もうひとつ特徴的なのは、時間とお金のバランスです。
- シングルマザーは非正規・短時間勤務に偏りがち
- そのぶん、子どもと一緒にいられる時間は相対的に長い
- ただし収入が低く、将来に向けた投資(教育・経験)がしにくい
という「時間はあるけど、お金がない」状態になりやすい。
良く言えば、
- 子どもと密に向き合う時間がとれる
- 母子の絆が強くなりやすい
悪く言えば、
- いつもお金の不安がつきまとい、親のストレスが高い
- 子どもが「お金がないから」と夢を途中であきらめる場面に直面しやすい
という二面性を抱えることになります。
父子世帯の子どもの未来:お金はあるが、ケアの形が変わる
一方、父子世帯の子どもの未来はどうでしょうか。
平均収入は高く、生活基盤は相対的に安定
先ほどのとおり、父子世帯の父の平均年収は518万円。
母子世帯よりも大きく上回り、世帯全体の平均収入も高い水準にあります。
加えて、研究によっては
- 父子世帯は母子世帯に比べて
- 正規雇用比率が高い
- 持ち家率が高い
- 祖父母との同居率が高い
とされており、住居費や家事・育児を祖父母と分担することで、父親本人がフルタイムで働き続けやすい構造があると分析されています。
その意味で、
「父子世帯になれる父親」はもともと経済的に恵まれた層に“選抜”されている、
という見方が有力です。
進路は「早期就労」寄りになりやすい
同じひとり親調査では、高校卒業後に
- 母子世帯の子:大学進学が最多(41.4%)
- 父子世帯の子:就労が最多(36.1%)
となっており、父子世帯の子どもは、比較的早い段階で働き始める割合が高い傾向があります。福祉新聞web
これは
- 「父が稼ぎ頭、祖父母が家事・育児サポート」という家族モデルの中で
- 子ども自身も早めに家計を支える一員として働く
という価値観が反映されている可能性もあります。
つまり、
- 経済的な底抜けの貧困には落ちにくい一方で
- 学歴面では、母子世帯の子よりも「短期決着」になりやすい側面もある
という、少し意外な対比が見えてきます。
「お金はあるが親は忙しい」パターンも
父子世帯の場合、典型的には
- 父親:フルタイム+残業
- 祖父母:家事・子守り
- 子ども:放課後は学童・部活・バイト
という形で、日々の細かなケアを祖父母・外部サービスに頼ることが多くなります。
- 生活費や教育費に余裕がある
- 祖父母も含めた「家族ネットワーク」で見守られやすい
というメリットがある一方で、
- 父親が物理的に忙しく、子どもとじっくり話す時間が取りにくい
- 「父親に遠慮して本音を言えない」「祖父母も昭和的価値観で厳しい」など、心理的なハードルが高くなりがち
といった声も、当事者からは聞こえてきます。
どちらが「正解」かではなく、構造を知って備える
ここまでの話を整理すると、
- 親権が母親に偏るのは
- ・法制度・家裁実務(継続性・主たる監護者重視)
- ・協議離婚の場における「子どもは母親」前提
- ・「母親が子どもを置いていく」ことへの強烈なスティグマ
といった構造の結果である。
- そのうえで、
- ・母子世帯の子ども:一緒にいる時間は多いが、貧困リスク・教育機会の制約が大きい
- ・父子世帯の子ども:生活基盤は安定しやすいが、早期就労や父との心理的距離といった別の課題を抱えやすい
という、「時間とお金の配分が違う未来」が見えてくる。
ここで大事なのは、
「どちらが幸せか」をジャッジすることではありません。
「脱・おふたりさま」の文脈で言えば、伝えたいのは次のようなことです。
- 母親が親権を取るのは、構造と規範意識の結果
- その結果として、母子世帯側に家計リスクが集中する現実がある
- だからこそ、離婚を視野に入れるなら
- ・慰謝料・養育費は「あればラッキー」の補助輪
- ・自分の就労収入をどう太くするか
- ・実家・親族ネットワークをどう整理しておくか
を、まだ「おふたりさま」のうちに考えておいたほうがいい
すでに母子世帯・父子世帯として踏ん張っている読者に対しては、
- 「構造的にしんどい側を引き受けている」という事実をまず自分で認めること
- そのうえで、
- ・行政の支援策(児童扶養手当・就労支援)
- ・転職エージェント・資格取得などの“単価アップ”施策
- ・学費支援や給付型奨学金の情報収集
などを、「自分がサボっているからだ」と責めるのではなく、淡々と使い倒していくこと
を強くおすすめしたいところです。
おわりに:親の選択が、子どものスタートラインを決めてしまうから
誰が親権を取るか。
それは、単に「どちらが子どもを引き取るか」という話にとどまりません。
- どのくらいのお金の厚みがある家庭で育つか
- どれだけの時間を親と一緒に過ごせるか
- 高校卒業後にどれだけの選択肢が開かれているか
といった、子どものスタートライン全体を大きく左右する選択です。
その割に、協議離婚の現場では
- 「なんとなく子どもは母親でしょ」
- 「仕事があるから俺には無理」
といった空気で、サラッと決められてしまっていることも少なくありません。
この記事が、
- これから離婚を考える人にとっては、「構造を知ったうえで戦略を立てる」材料に
- すでに母子・父子世帯で踏ん張っている人にとっては、「自分と子どもの立ち位置を整理し、次の一手を考える」きっかけに
なれば幸いです。