「探偵はどこも同じ」は大間違い。裁判で使えない“残念報告書”をつかまないための探偵事務所の見抜き方

「探偵はどこも同じ」は大間違い。裁判で使えない“残念報告書”をつかまないための探偵事務所の見抜き方

パートナーの浮気調査や離婚を見据えた証拠集めで、探偵事務所の利用を検討する人は少なくありません。ところが現実には、「どこも似たようなものだろう」「とりあえず安いところで」と、ほぼノーリサーチで契約してしまう人がかなりいます。

はっきり言うと、それはかなり危ない選び方です。

私は裁判実務の現場で、探偵事務所が作成した調査報告書を実際に何度も目にしてきましたが、その質には驚くほどの“格差”があります。きつい言い方をすれば、「これでお金を取っているのか」と疑いたくなるレベルの報告書も珍しくありません。

探偵事務所の実力は、調査力」と「調査報告書の出来映え」の掛け算で決まります。そして、その調査報告書は本来、

  • 裁判になっても耐えうるレベルである

  • できれば裁判に行く前の交渉・話し合いの段階で相手を黙らせるため
    に使う

べきだと考えています。

つまり、「裁判用の最後のカード」にするためだけではなく、「裁判に行かずに済ませるための強力な交渉材料」にするのが理想です。

そのためには、調査員と機材を含めた調査力、証拠として耐えうる報告書の質、この両方をきちんと備えた探偵事務所を選ぶ必要があります。

探偵事務所の調査力の凄さを知ったある出来事

裁判所書記官として民事事件を担当する部署に長く配属されていたため、離婚訴訟や損害賠償訴訟の証拠として提出された探偵事務所の調査報告書は何度も目にしたことがあります。その経験から、事務所によって実力に差があるということは感じていました。

以下の話は「探偵事務所凄いなぁ」ということを実感したある出来事になります。

登場人物
A君:大学新卒で入社後勤続6年が経過した20代後半の社員。「無断欠勤なし」「ここ数年の人事評価は5段階評価のB(もう少し細かい区分けがあって、「Aに近いB」という評価)」という、どちらかというと優秀層に入る社員
B課長:A君が所属する部署の直属の上司
C部長:A君が所属する課を含む部門の総括管理職
X社:取引先会社。A君が担当として大きな案件が進捗中であった。

※私は裁判所を退職後に、この会社に入社し管理部門で人事・総務系の業務を担当していました。

◆分かりやすさのため、この時の経緯を仮の月日にて時系列表記します。

  • 3月10日(金) A君出勤この日、取引先のX社から「お願いしていた案件についての進捗はどうなっているか」との問い合わせあり。X社が今回依頼した案件はX社にとってかなり大きな売上が見込めるものであるため、現時点での進捗状況を早めに知りたいとのこと。担当のA君がちょうど不在で、B課長が対応。戻ったA君に状況を確認したところ「現在、処理中です」との返事。課長はA君に「X社からの依頼を受けてから現在までの経緯を今日中に文書にまとめるように」と指示。その文書自体は夕方ころまでに出来上がり、A君からB課長に提出された。本来、担当であるA君からX社に連絡を入れるべきところ、A君がここ数日体調不良とのことで元気がなく早退が続いていたためB課長の配慮によりB課長がX社との対応を引き継ぎA君を定時で帰宅させた
  • 3月11日(土) B課長は休日出勤をしA君からの報告文書の内容を精査したところ、文書中でやったとされている業務を何一つやっていないことが判明。またこの時点でX社から依頼を受けていた業務を完遂することはもはや不可能であることも判明。B課長はC部長に報告の上、A君に連絡をとったが携帯に出ない。結局この日はA君と連絡つかず管理部門の部長にC部長から経緯の報告があり、A君の緊急連絡先である実家(青森県)の御両親に電話をし事情説明。
  • 3月12日(日) 前日の会社からの連絡によりA君の御両親からもA君に連絡を取ろうとしたが携帯は繋がらず御両親がA君の自宅(千葉県)に急ぎ向かうも不在管理会社に事情を説明しカギを開けてもらいA君宅に入ったところ、両親に宛てた走り書きのメモあり。御両親から管轄の警察署に捜索願提出同時に探偵事務所にもA君の捜索を依頼したとのこと。
  • 3月13日(月) 引き続きA君への連絡を試みる。この日は大きな進展なし。
  • 3月14日(火) A君の御両親より「Aが見つかった」との連絡。

A君を見つけたのは探偵事務所です。A君の発見場所は九州地方の某県でした。御両親がA君のこれまでの生活状況や性格、趣味などに関して探偵事務所に情報を伝えていたそうですが、その趣味に関する思い入れの強い場所で発見したそうです。

依頼があってから中一日、しかも居住地である関東地方からはかなり離れた九州地方で見つかったという話を聞き、ちょっと驚くと同時に「ネットワークが万全の探偵事務所だとやっぱり凄いんだな」と、不謹慎ながらも感心してしまいました。書き置きの内容が緊急を要すると判断できるもので、御両親としては切羽詰まった思いで探偵事務所に依頼したと想像できます。結果としてそれが大正解だったわけです。

警察を責める訳ではありませんが、警察に捜索願を出しただけだったらこのようなスピード発見には至らなかったでしょう。

余談ですが、この件ではA君が見つかったのは本当に良かったものの、X社への対応に関しては会社として賠償責任を問われるような状況にもなってしまい上層部は事後処理が大変だったようです。

また、A君は結果として懲戒解雇となり、会社としてA君に損害賠償責任を問うことも可能でした。しかし、A君の業務負担が過大な中で周囲のフォローが全くない状態が長期にわたっていたという労働環境の問題もあぶり出され、一方的にA君に責任を負わせるのはどうか、という議論になったようです。

最終的な会社の判断として、A君に対し訴訟等で金銭的な支払いを求めることはしませんでした。 

探偵事務所の仕事内容

探偵事務所にはどんな仕事を頼めるか

まず最初に、「探偵事務所」とか「興信所」とかありますが、基本的に両者はほぼ同じものと考えてOKです。「興信所のほうが企業の信用調査に強い」などといった話も聞きますが、浮気調査のような個人調査では双方に差はないと思ってよいでしょう。

さて、探偵事務所に頼める仕事ですが、「探偵業の業務の適正化に関する法律」という法律があって、その第二条に探偵事務所が扱える業務が示されています。

第二条 この法律において「探偵業務」とは、他人の依頼を受けて、特定人の所在又は行動についての情報であって当該依頼に係るものを収集することを目的として面接による聞込み、尾行、張込みその他これらに類する方法により実地の調査を行い、その調査の結果を当該依頼者に報告する業務をいう。

これだけだとイメージが湧きにくいですね。 

探偵事務所によって取扱い業務の有無はありますが一般的な具体例は以下の通りです。 

  • 浮気・不倫
  • 人探し・所在調査(家出、行方不明)
  • 企業・個人の信用調査
  • 素行調査(結婚信用調査、身辺調査など)
  • その他(ストーカー、嫌がらせ、盗聴器発見など)

「探偵=浮気調査」というイメージが強いですが、上記のとおり実際にはそれだけではありません。

ざっくり言うと、個人の生活トラブル全般に関わる「証拠集めの裏方」を担うのが探偵の仕事です。

共通しているのは、「事実を客観的な記録として残すこと」。
いつ・どこで・誰が・何をしたのかを、後から見てもごまかしようのない形で積み上げていくことが求められます。

ここでごまかしが効かないのが、調査員の実力と機材の差です。


人混みで対象を見失うような調査員夜間や悪天候だとまともな写真が一枚も撮れない機材――こういった“残念な現場力”は、そのまま「交渉に使えない報告書」として表面化します。相手に突きつけたとき、「こんな写真なら言い逃れできる」と思われた瞬間に、交渉材料としての価値は一気に落ちます。

「良い調査力」とは何か

良い探偵事務所の調査力は、きれいごとではなくかなり現実的です。

良い調査力とは

観察力と尾行技術
人混みや駅構内、車での移動など、対象者を見失いやすい場面でどこまで食らいつけるか。ここは調査員の腕の差がはっきり出ます。

判断力と場慣れ
尾行がバレそうなとき、無理に追って警戒させるのか、安全に引いて別ルートで拾い直すのか。場数を踏んでいない調査員は、この判断を誤ります。結果として「決定的瞬間を撮り逃した」報告書が増えます。

機材への投資
暗所や悪天候でも“何が写っているか分かる”レベルのカメラなのか、単に「写真がなんとなく撮れているだけ」なのか。ここをケチっている事務所は、報告書の写真を見れば一発で分かります。交渉で相手に見せたとき、「これ、本当に誰?」と笑われて終わりです。

チーム体制と下準備
一人で追いかけるのか、複数名で交代しながら追うのか。対象者の生活パターンや行動ルートを事前にどこまで分析しているのか。場当たり的な調査かどうかは、成果物を見ればすぐにバレます。場当たりの調査からは、交渉で相手の逃げ道をふさげるレベルの証拠はなかなか出てきません。

これらが総合されたものが「調査力」です。


調査力が貧弱な事務所は、どれだけ見栄えの良い報告書テンプレートを使っても、中身の薄さは隠せません。
そして中身が薄い報告書は、裁判どころか、その手前の「示談・協議・調停」でさえ相手を動かす材料になりません。

仕事依頼から業務完了までの流れ

多くの探偵事務所では、
最初に面談を行い、状況をヒアリング
調査方針や期間、料金の見積もりを提示
契約書を交わす
実際の調査に入る
調査報告書が納品
というのが基本的な流れになります。

このときの説明の仕方が「実力の有無」をかなり正直に物語ります。

探偵事務所の真の実力の有無チェック

  • ✅「とりあえず様子を見てみます」「だいたいこれくらいで」と曖昧な説明しかしないのか
  • ✅「この時間帯に動きが出やすいので重点的に張り込みます」「〇名体制で交代しながら追跡します」と具体的な段取りを語れるのか
  • ✅「最終的に報告書をどう交渉に使うか」という前提で話をしてくれるのか

このへんが現場と裁判・交渉を両方分かっている探偵」の分かれ目です。

調査の結晶が写真やタイムラインを含む調査報告書になるわけですが、この報告書が、調査で集めた事実を「証拠」に変換する最後の工程です。相手に突きつけて「これ以上言い逃れできない」と悟らせるための武器にできるだけの充実した内容でなければ意味がありません。素材(調査力)が貧弱なら、報告書の内容も貧弱になるのは当然で、どんなに飾っても“交渉で効かないただの紙の束”で終わります。

探偵事務所が作成する調査報告書の重要性

調査報告書には何が書いてあるのか

浮気調査であれば、対象者の外出時刻、移動手段、立ち寄り先、同席者、ホテルや飲食店への出入りの有無――こういった内容を時系列で記録し、写真や図、地図などを添付していきます。

問題は、その書き方です。

  • 日時の記載があいまい
  • 「親しげに歩いていた」「仲睦まじい様子だった」など主観的な形容詞だらけ
  • 写真と本文が対応していない

こういった報告書は、裁判所から見れば「感想文に毛が生えた程度」でしかありませんし、交渉の場でも相手に「そんなふうにも見えるけど違うよ」と言い逃れされて終わりです。

第三者が見ても同じ結論にたどり着けるように、淡々と客観的事実を積み上げているかどうかが勝負です。
そのうえで、「これを裁判に出されたら分が悪い」と相手が感じるレベルまでいけば、ほとんどの場合、裁判に行く前の段階で話がまとまりやすくなります。

調査報告書の役割としては、本来「調査力の成果を、法的に使える言語に翻訳したもの」ですが、それと同時に「裁判をちらつかせながら交渉で決着させるための材料」でもあります。弁護士に依頼して訴訟手続きをするとなれば、時間的にも金銭的にもより多くのコストを負わなければなりませんので、そうなる前に決着できればあなたの痛手は最小限ですむでしょう。

だからこそ、翻訳の質が低い報告書はもちろんダメですが、それ以前に“翻訳する元データが薄い”事務所に依頼するようなミスは避けなければなりません。

どの探偵事務所が作っても出来映えなど大差ないのでは?

出来映えに差はあります。

この出来栄えが非常に重要です。

こんなのがダメな調査報告書

  • 写真がブレブレで、誰が写っているのか判別困難
  • ✅夜間撮影が真っ暗で、もはや「黒い画面」レベル
  • ✅日時・場所の記載漏れが多く、後から検証しようがない
  • ✅調査員の推測を事実のように書いている

こうした報告書は、裁判で突っ込まれれば簡単に崩れますし、協議や調停で相手に見せても「こんな写真なら知らない」と居直られて終わりです。「素人が頑張って撮りました」と言われてもおかしくない内容で、プロの仕事とは呼べません

一方で、きちんとした事務所の報告書は、写真も本文も“無駄に飾らなくても実がある”のが特徴です。

いい調査報告書の一例

  • 誰が・どこで・何をしているかが一目で分かる写真
  • ✅夜間でも最低限の画質が確保されている
  • ✅日時・場所・人物の特定がきちんとできる記載
  • ✅時系列で整理され、読み手が迷わない構成

そこには、高い調査力と、証拠として耐えうる形にまとめる技術の両方が見て取れます。
こういう報告書は、相手に見せた段階で「これを裁判に出されたら負けると直感させやすく、むしろ裁判に行かずに決着がつきやすいのです。

「調査さえしていればいい」「なんとなく怪しい写真が数枚あれば十分」――こうした感覚の事務所に依頼すると、最後に手元に残るのは「高い割に、交渉でも裁判でも使いづらい紙束」です。辛口ですが、それが現場の実感です。

探偵事務所に調査を依頼する目的は人それぞれだとは思いますが、「安くはない費用を支払って調査依頼するからには、最悪、訴訟までもつれ込んでしまったとしても証拠として耐えうる内容がなければ調査報告書としての意味がない」のは当然です。これは、訴訟手続きに関与してきた中で多くの証拠書類を目にしてきた経験から言えることです。誰かの尾行をして、何となくいっぱい写真が載っていて、日付があって、調査した形跡がある」ではダメなのです。

信頼できる探偵事務所を選ぶための基準

では、一般の依頼者はどうすれば「ハズレ」を引かずに済むのか。
最低限、次のポイントはチェックしたいところです。

①料金と契約内容が具体的か

安い高いの問題もあるかもしれませんが、それよりも「料金の明確さ」が大事です。「総額いくらです」「パック料金です」だけでは不十分。調査時間、経費、追加料金の条件など、細かい項目も書面で明示されているかを必ず確認してください。ここを曖昧にする事務所は、調査や報告書の中身もだいたい曖昧です。

②調査報告書のサンプルを見せる姿勢があるか

個人情報を伏せたうえで、実際の報告書イメージを見せてくれるかどうか。これを嫌がる事務所は、「見せられるほどの報告書ではない」可能性も疑った方がいいでしょう。
「このレベルなら、相手に見せたときどこまで黙らせられるか」という目で見てください。

③裁判だけでなく「交渉で決着させる」視点を持っているか

「裁判で使う可能性もあります」と伝えたときに、具体的な証拠量や調査期間の提案が返ってくるか。それに加え、「このレベルの証拠があれば、調停や示談でもかなり有利に進められます」といった話ができるかどうか。裁判のことしか頭にない事務所は、依頼者の負担を現実的に考えていない可能性があります。

④調査員・機材・体制について説明できるか

「何名体制で追いますか」「夜間はどう対応しますか」「どういった機材を使いますか」といった質問に、具体的な答えが返ってくるか。ここで歯切れが悪い事務所は、調査力に不安ありと見ていいと思います。調査力がないと、「交渉で相手の逃げ道をふさげるレベルの報告書」はまず出てきません。

⑤違法スレスレのことを平気で言わないか

“裏ワザ”が有効に働くこともありますが、違法スレスレのようなことを自慢げに話すところは要注意です。違法な調査は、そもそも証拠として採用されないどころか、依頼者側に不利に働くリスクすらあります。法律感覚がズレている事務所は、報告書の作りも信用しないほうが賢明です。

まとめ

探偵事務所は「どこも同じ」ではありません。


冒頭で書いたように、えげつない調査力を有する事務所もあれば、箸にも棒にも掛からないような仕事しかできない事務所もあって、実力差が激しい業種のひとつだと思います。

探偵事務所選びの基準【「脱・おふたりさま」バージョン】

⑴ 調査員と機材を含めた“本物の調査力”があるか
⑵ その調査力を土台に、裁判でも証拠として耐えうる調査報告書を作れるか
⑶ さらに、その報告書を“裁判に行く前の交渉で決着させるための武器”として意識しているか

この三つを満たす探偵事務所は、正直そう多くありません。

チラシの割引や、ネット広告の派手な謳い文句だけで決めてしまうと、最終的に「お金だけ払って、交渉でも裁判でも弱い報告書しか残らない」ということになりかねません。

辛口に言えば、探偵選びをサボるのは、自分の将来の選択肢を削る行為です。
だからこそ、「裁判でも通用するレベルの報告書」を前提にしながら、「できるだけ裁判に行かず、その報告書を武器に話をまとめる」という視点で、調査力と報告書の出来映えを軸に探偵事務所を選んでほしいと思います。それが、自分や子どもの今後の生活を守るための、かなり現実的な防衛策になります。

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