判決は取れた。でも回収できない。強制執行の「徒労感」と向き合う前に知っておきたいこと

判決は取れた。でも回収できない。強制執行の「徒労感」と向き合う前に知っておきたいこと

ここでは、「裁判で勝てばお金は取り返せるはずだ」という、よくあるイメージとのギャップについてお話しします。

結論から言えば、判決を取り、強制執行までしても、実際にお金を回収できるケースは決して多くありません。むしろ「ほとんど回収できないまま終わる」というほうが、裁判実務の肌感覚に近いです。

その前提を踏まえつつ、判決に何が書かれていて、その後どんな選択肢があり、どこに落とし穴があるのかを見ていきます。


裁判の判決には何が書いてあるのか

民事裁判の判決には、大きく分けて「主文」と「理由」が書かれています。
一般の方がまず確認すべきなのは、主文の部分です。

被告は原告に対し◯◯万円を支払え」
「支払済みまで年◯%の割合による遅延損害金を支払え」

といった形で、いくら、どのような条件で支払うべきかが明記されます。
この判決が確定すると、あなたは債権者、相手は債務者としての立場が固まり、「強制執行してもよい」という資格(債務名義)を得ることになります。

ここまで来ると、多くの方は「これでようやく支払ってもらえる」と思いがちですが、残念ながら、現実はそこからがスタートです。

裁判で勝つと何ができるのか

判決を取る最大の意味は、国家権力を使った「強制執行」に進めるようになる点です。


判決がなくても、貸した事実があるならもちろん請求はできるのですが、公的な機関があなたの権利にお墨付きをくれたのですから、まずは、改めて「返せ🫴」と言いましょう。相手がそこで自らきちんと支払ってくれるなら、そこで話は終わりますので御の字です🙌。しかし、そもそも自発的に払ってくれる人であれば、裁判になる前に解決していることが多いのも事実です。

実務の感覚としては、
支払うつもりがない
・払いたくても払えない(無職、低所得、多重債務など)

という相手だからこそ、裁判までこじれている、というケースが少なくありません。

だからと言って、怒りに任せ「裁判所の判決出たんだから払えっ、コノヤロー👿」的な勢いで相手の家に押しかけて、玄関壊したり🚪、窓ガラス割ったり🪟、タンス引っ掻き回したり🧥🧦、家族にちょっと危害を加えたり⚔️、はできません。当たり前ですが。これをしたら、あなたが刑事事件の被告人になって前科者になり、逆に賠償金を払う側になってしまいます。

「判決=回収まで自動で進む」というよりも、
「判決=強制執行のスタートラインに立てるだけ」
と考えたほうが、現実に近いでしょう。

では返してくれなかったらどうしましょう?

払ってくれなきゃ何をしなければならないのか

ここで初めて、「強制執行をする」という選択がチラついてきます。

ヨネブロ
ヨネブロ

「強制執行」は、訴訟手続との連続性がありません。そのため、訴訟手続が終わったあとに別途申立て手続を行わなければなりません。手間と時間をかけて判決を得たにもかかわらず、またしても手間と時間のかかる手続が待ち構えているのです(涙)。

判決が出ても、まずは任意の支払を促すのが通常です。
内容証明郵便などで「いつまでに支払ってください。支払がない場合は強制執行を検討します」と最後通告を出すこともあります。

それでも払ってこない場合、初めて「強制執行するかどうか」を具体的に検討します。
しかしここでぶつかるのが、

 ・差押えの対象となる財産がそもそもあるのか

 ・あったとしても、どこまで回収できるのか

という問題です。

たとえば、相手が非正規雇用や日雇い、個人事業主で、給与差押えが難しいケースもあります。銀行口座も残高がほとんどなければ、差押えをしても「空振り」で終わります。不動産についても、ローンが残っていたり、そもそも持ち家を持っていない人も多くいます。

強制執行はタダではありません。申立書の作成、印紙代や郵券、登記関係費用など、こちらもそれなりのコストを負担することになります。
費用をかけて差押えをしてみた結果、「結局ほとんど回収できなかった」という結末も珍しくありません。


強制執行すると決めたらどうしたらいい

強制執行とは何か

強制執行とは、裁判所の手続を通じて、相手の財産を差し押さえ、そこから債権を回収する仕組みです。
ただし、裁判所が勝手に相手の財産を調べ回り、「この人にはこの財産がありますよ」と教えてくれるわけではありません。

  • どの勤務先の給与を差押えるのか
  • どの銀行のどの支店の預金を狙うのか
  • どの不動産を競売にかけるのか

といった情報を、申立てをする側がある程度特定していく必要があります。
この時点で、そもそも相手の勤務先や取引銀行がわからないと、一歩も進めません。

ここであいまいなまま「とりあえずやってみましょう」と強制執行に突っ込むと、費用と時間だけが消えていき、回収はゼロ……ということになりかねません。

何を差押える? 差し押さえるものがあるのか?

差押えの代表的な対象は、大きく分けて「債権」と「不動産」です。判決や公正証書などでの強制執行の場合は「債権」の差押えが大半です。

ヨネブロ
ヨネブロ

「動産」「自動車」などへの差押えなどもありますが、件数がかなり少なく、執行官という職種の方々の業務でもあるため、ここでの説明は割愛します。

ここで「債権」についてちょっと話したいと思います。

「債権」と言われてもピンとこない人も多いはずですが、不親切を承知のわかりにくい解説をすると次のとおりです。

「債権」とは
「特定の人に特定の行為や給付を請求できる権利」(へー、そうですか・・・(心の声))

この説明だけでどんな権利かを具体的にイメージできるのは、法律の勉強をしたことのある人くらいだと思うので、「債権」の一例を挙げます。

Aさんは、Bさんのところで働いています。

・AさんはBさんに対し「働いてるんだから給料を払え」という「お金の給付」を請求する権利を持っています。
・一方Bさんは、Aさんに対し「給料払ってるんだからちゃんと働け」という「労働行為」を求める権利を持っています。

ちょっとは理解の手助けになったでしょうか。普段の生活ではほぼ馴染みのない言葉ですが、この「債権」というものは「給与」や「労働行為」のようにいろいろな形で身近に存在しているのです。このように考えると「不動産」を所有している可能性に比べ、普通に働いて普通の生活をしている人であれば何らかの「債権」を持っていそうな気がしませんか。

となるとまず考えるべきは、相手方が有してそうな「債権」を見つけることです。

裁判所の債権執行実務でいうと、圧倒的多数を占めるのが「給与」と「銀行口座(預金)」の二大巨頭となります。この二種類ならば、大多数の大人が「債権」として権利を持っていそうに思えます。ですから、このあたりから検討していくことになるでしょう。

さて、
この二大巨頭と「不動産」が、執行手続きでの対象となりやすい財産ですが、それぞれにいろいろ問題もあります。

給与差押えは、一定の割合しか差押えできないものの、継続的に少しずつ回収していく方法です。ただし、相手が退職すればそこで終了ですし、もともとの収入が低ければ、差押え可能額もごくわずかになります。

銀行口座の差押えは、タイミングが合えば一気に回収できる可能性がありますが、残高がゼロなら何も取れませんし、振込のタイミングを狙うなどの工夫が必要になることもあります。

不動産差押えは、債権額が大きい場合の選択肢ですが、競売まで進めるには時間も費用もかかり、他の抵当権者などとの優先順位の問題も絡みます。「差押えはできたが、手元に入ってきたお金はごくわずか(というかゼロ)だった」という結果もあり得ます。

こうした手続の具体的な流れや、どれだけ「空振りリスク」があるのかについては、

  • 給与差押え
  • 口座差押え(預金差押え)
  • 不動産差押え

それぞれを個別の記事で、もう少し掘り下げていきます。


まとめ:強制執行は「最後のカード」だが、万能ではない

裁判で勝ち、判決を取ることは大事です。しかし、それだけでお金が戻るわけではありません。
強制執行という「最後のカード」を切っても、実際には十分な財産が見つからず、ほとんど回収できないまま終わるケースが少なくない。というか「回収できないことが圧倒的に多い」のが現場にいたときの実感です。

だからこそ、

  • 本当に強制執行まで踏み込むのか
  • どの財産を狙うのが現実的なのか
  • そこにかける時間・費用・精神的エネルギーに見合う回収ができるのか
  • そもそも裁判までやる意味があるのか

を冷静に考えることが欠かせません。

判決はゴールではなく、あくまでスタートライン。「取り立ての厳しさ」を踏まえたうえで、その後の人生設計や働き方も含めて考える材料にしていただければと思います。

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