【裁判実務経験の目線から】フリーランスエンジニアが“案件ガチャ”で詰まないための、契約事故とキャッシュフロー防衛術

【裁判実務経験の目線から】フリーランスエンジニアが“案件ガチャ”で詰まないための、契約事故とキャッシュフロー防衛術

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。法的助言ではありません。個別事情は専門家にご確認ください。

フリーランスエンジニアの不安は、技術不足よりも「契約事故」と「キャッシュフロー事故」です。
単価が高くても、案件が飛ぶ。検収が伸びる。支払いが遅れる。仕様が増えるのに追加費用が出ない。
そして最悪のケースでは、未払いが起きて“回収できない”まま終わります。

裁判実務の現場で繰り返し見た結論はシンプルです。
取れないものは取れない。だから、取れなくならない状況を先に作る。
フリーランスが安定して働き続けるためには、「事故が起きるかもしれない」前提での設計が必要です。

この記事では、フリーランスエンジニアが“詰まない”ために最低限押さえるべき、契約とお金の防衛策をできるだけ具体的にまとめます。

1. フリーランスの敵は「依存先が1つ」になること

会社員の不安は“会社依存”。家庭の不安は“配偶者依存”。
フリーランスの不安は、「案件元依存」です。

依存先が1つだと、交渉の余地は少なくなり、条件は悪化し、事故が起きた時に仕事消滅へ一直線になりかねません。だからフリーランスは、技術スタックと同じ発想で、仕事基盤も「冗長化(分散)」しておくべきです。

  • 案件元を分散(1社に寄せない)
  • 条件交渉のカードを持つ(比較対象を持つ)
  • 事故が起きる前提で、契約と証拠を固める

この3つができるだけで、同じスキルでも“詰みやすさ”は大きく変わります。

2. 押さえるべき前提:「事故が起きたら戦う」はリスクが高すぎる

フリーランスの仕事上での揉め事は、本人が望んでいなくても発生します。
そして「揉めた時点」で、すでに勝負はかなり決まっています。

なぜなら、争いになった場面で問われるのは、だいたい次の2つだからです。

  • 契約上どうなっているか(条項)
  • その通りに動いた証拠が残っているか(記録)

言った/言わない」になった瞬間、フリーランスの立場を考えると体感的には負けに近づきがち。
だから、フリーランスに必要なのは“強い交渉術”より、揉めないようにする契約設計
です。

3. 裁判視点で見る「契約事故あるある」3つの黄色信号

未払い・減額・トラブルの多くは、いきなり起きるのではなく“兆候”があります。
以下のいずれかに当てはまるなら、黄色信号です。

黄色信号1:口頭での仕様伝達が増える/議事録が残らない

「軽微だから」「ついでに」「これくらいは」——この言葉が出たら身構えましょう。要注意です。
依頼先との関係性もあるかもしれませんが、あなた自身も「まあ、これくらいなら…」の発想は捨てた方がいいです。

追加対応が積み上がっているのに、それを依頼された証拠が可視化された形で残っていない。
この状態では、後から追加請求をしようとしても、認められにくくなります。

対策(最低ライン)

  • 都度のやり取りを文章化(箇条書きメールで十分)
  • 追加対応は「工数見積 → 合意 → 着手」の順に固定
  • 仕様変更は“誰の意思決定か”を明確にする

仕様変更で無償残業しないための「合意ログ」テンプレ

黄色信号2:検収が長い/検収条件が曖昧

検収が曖昧だと、支払いがされるのかどうかが曖昧になります。
支払いが曖昧だと、キャッシュフローが絶望的になります。

フリーランスにとって、検収の遅延は“単なる手続きの遅れ”ではなく、生活に直結する問題です。

対策(最低ライン)

  • 検収の定義(何をもってOKか)
  • 検収期限(何日以内に返答か)
  • 返答がない場合の扱い(黙示承認等)
    この3点は、できるだけ事前にクリアにしておく。

黄色信号3:担当がコロコロ変わる/決裁者が見えない

現場担当は良い人でも、決裁者が別にいると話が変わります。
追加費用、単価、支払いの承認は、結局“決裁者の都合”で止まることがあります。

対策(最低ライン)

  • 誰が最終OKを出すのか、早い段階で確認
  • 追加費用は「現場の口約束では動かない」前提で設計
  • 合意形成が必要なものは、文章で“確定”させてから進める

4. 「準委任/請負」を雑にすると、揉めた時の痛みが増える

フリーランスの契約は、ざっくり言うと「準委任」か「請負」に集約されます。
どちらになるのかの確認を雑にすると、揉めた時の争点が増えます。

  • 準委任:仕事の“遂行”が中心(成果物保証が弱めになりやすい)
  • 請負:成果物の“完成”が中心(検収・瑕疵・責任が重くなりやすい)

どちらが良い悪いではなく、契約の中身と実態が一致しているかが重要です。
「実態は請負っぽいのに、準委任として運用されている」などのズレは、揉めた時の火種になります。

5. キャッシュフローの防衛は「売上」より先に“サイトとバッファ”

売上が高くても、入金が遅すぎれば生活が詰みます。
フリーランスに必要な視点は「単価」より先に、次の2つです。

1)支払いサイト(入金までの期間)を把握する

月末締め翌月末払いなのか、翌々月なのか。
これが長いほど、資金繰りは苦しくなります。

2)生活防衛バッファを“月数”で持つ

貯金額ではなく「何ヶ月耐えられる余力があるか」で考える。
案件更新のタイミング、検収遅延、体調不良。
このどれかが重なると、一瞬でキャッシュが心もとなくなります。

最低でも「生活費×2〜3ヶ月」を基準に、徐々に厚くする。
これがあるだけで、焦って地雷案件に飛び込む確率も下がります。

6. 交渉に強い人がやっていることは、実はシンプル

単価交渉や条件交渉が強い人は、話し方がうまいわけではありません。
共通しているのは、次の2つです。

  • 条件を明確化している(最低単価、稼働上限、出社頻度、開始時期など)
  • 比較対象を持っている(相場観・複数提案・代替案)

交渉は“話術”ではなく、「譲れない基準を言語化できるか」です。
比較対象がゼロの状態で交渉に臨むと、「相手の提示が基準」になってしまいます。

7. 今日からできる「トラブルを増やさない運用ルール」5つ

最後に、難しいことを抜きにして、これだけ守ると事故遭遇率が下がるルールを挙げておきます。

  1. 会議後は箇条書きで合意内容を送る(議事録は長くなくていい)
  2. 仕様変更は“工数と期限”をセットで合意(追加対応の無料化を防ぐ)
  3. 検収・支払いのルールを曖昧にしない(曖昧ならリスクとして見積もる)
  4. 決裁者が誰かを把握する(現場の善意に賭けない)
  5. 生活防衛バッファを月数で考える(焦りが地雷を呼ぶ)

まとめ:フリーランスの自由は、“事故前提の設計”で守れる

フリーランスの武器は技術ですが、生活を守るのは設計です。
契約事故や未払いは、起きてから戦うより、起きそうな不安ポイントを先に潰しておくほうが圧倒的にリスク軽減になります。

  • 依存先を分散する
  • 契約と運用を一致させる
  • 証拠(ログ)を残す
  • キャッシュのバッファを持つ

この4点ができるだけで、同じ収入でも「詰みにくさ」は大きく変わります。

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